DISCOGRAPHYディスコグラフィ

brand new A

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brand new A

アルバム全4曲、辻本明子の Voice によるマルチトラックレコーディングされた Chorus 仕立てのアルバムです。詳しくはこちら

2009 Dec RELEASE !
CD: R-0900243 AT-002 ¥1,500(税込)

1. Bird Of Beauty
2. So Many Stars please install the flash player
3. Don‘t Let Me Be Lonely Tonight
4. Stolen Moments
Vocal
辻本 明子 Akiko Tsujimoto
Vibraphone
浜田 均 Hitoshi Hamada
Electric Guitar
相原 秀章 Hideaki Aihara
Electric Bass
渡邉 裕美 Hiromi Watanabe
Acoustic Bass
カイドー ユタカ Yutaka Kaido
Percussion
小林 はじめ Hajime Kobayashi

メッセージ

吉村明子 [ジャケットデザイン監修]

それはただの思いつきからでしたね。
談笑のなかで出た「ひとりでコーラス、それもジャジーなアルバムってないかも」の案に「やってみたい!」の辻本さんの声。周囲は冗談半分に聞いていましたが、それからしばらくして正式に制作をすることになったのです。彼女の頭の中では些細な言葉をもキャッチして着実に計画がすすんでいたのですね。有言実行!スゴイ!
そして辻本さんのアルコールのノリで(?) アルバムデザインを依頼されたけれど、技術のない私は「人選ミスでしょ!」の思いを引きずりながら受けてしまいました。当初3曲収録だったアルバムを録り終えた直後、あと1曲追加の案が浮上。Stolen Moments を聴いてシックなイメージが湧き上がり、デザインをぐっとジャズを感じさせる色合いで表現したくなったのですが……。こんな貴重な経験をさせていただいた辻本さんに心から感謝しています!(そして友人の今道さん、ご尽力ありがとうございました) 思った以上に手ごたえのあるアルバム製作だったと思いますが、挑戦する意欲、努力、そしてやり遂げた実行力には脱帽。そしてまた、新しい「AKIKO」の世界 = Brand new world = Brand new Akiko = brand new A 、出来ましたね! おめでとうございます!

P.S. 今回のプロジェクトでは、録音終了の度に行われた反省会ならぬ「打ち上げ」もまた魅力のひとつでした。それがなくなるのは少し寂しいです(そっか、名目を変えればいいか。また集まりましょ!)。
〈チロリン〉

吉村 晴哉 [Arranger]

今回のアルバムはひとりで多重録音のジャズコーラス。「ひとり」というところに制約が出てきます。本来、人には音域があるので、たとえば4声だとすると、ひとりでファーストから4番パートまでバランス良くハモらせるのは難しいし、コーラスグループでは一度に声を出すのでハーモニーの良し悪しがすぐにわかりますが、ひとりの場合は4音すべて録音してはじめて結果が出ます(このあたりは三住さんのコメントを参照してください)。その結果、NG箇所があるとグループではそのパートの人だけ録り直しますが、すべて辻本さんひとりでこなさなければならないので、長時間になると声の疲れから声の音色が変化してしまいます。また、声の幅をもたせるために1パートをダブルで録音しましたが、2度目は最初にOKになったパートのフィーリング、ピッチ(音の高さ)、リズム、声量などを記憶して再現しなくてはなりません。そんな過酷な条件もこなし終えた辻本さんはスゴイと思いますね。
このアルバムはコーラスをメインにしたかったので、バックの楽器演奏はシンプルにドラムは入れず、基本はベースとパーカッションにして、変化をつけるためにギターとビブラフォーンのミュージシャンに1曲ずつ参加してもらいました。
ボーカリスト、ミュージシャン、レコーディングエンジニア、アレンジャーの思いが結集された辻本明子さんの珠玉のCDをお楽しみください。
〈吉村晴哉〉

三住 和彦 [Sound Engineer]

【アッコさんて……?】
『多重録音』と言われても、何ですかそれ?って問われる方も多いかと思う。
ライブやコンサートで生演奏を行う場合、例えば歌に5つの旋律があるならば、5人の歌手を呼ばなければならない。ところが"録音"の場合には、この『多重録音』という手法を使うことにより、必ずしもパート数分の歌手を呼ぶ必要が無くなる。一人で5人分のお仕事をすることができるのだ。つまり、最初のパートを歌った後に、それを聴きながら次のパートを歌う。次にそれら2つを聴きながら次のパートを歌い……と繰り返せば、100パートだって1人で歌えてしまう。
以前、インターネット上で、多重録音の記事を探していたら、たまたま以下の様な文を見つけた。


パティ・ペイジが多重録音でユニゾン・輪唱した『テネシーワルツ』(Tennessee Waltz)は1950年に大ヒットし、この技術は大衆にも注目された。日本に多重録音を知らしめたのもこの『テネシーワルツ』である(当時、歌手のペギー葉山はオーバーダビングを知らず、生声でパティの真似をしようと頑張ったが、無理だったという)。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これを読んだとき、一生懸命首を捻りながら挑戦しようと頑張っているペギーさんのお茶目な姿を想像して、思わず笑ってしまったのだ。
さて、前置きはこの辺にして、そんな『多重録音』という手品のような手法を駆使して生み出されたのがこのアルバムである。それも、2パートや3パートでは無い。5パートと5パートが重なって10パートもあったりする部分もある。すご~い! 辻本明子だらけだ。どこを聴いても辻本明子。想像しても無理。これはもう聴いてみるしか無いのです。1人の声がおりなすオーケストラ? 必聴だ。また、この絶妙なハーモニーを描いた吉村晴哉氏の、コーラスアレンジの妙を堪能していただけることが、このアルバム必聴のもう一つの理由なのだ。
さて、ちょっと話は変わり。こんなに多くのパートを一人で歌う事をやり遂げた明子さんは、もしかしてマゾヒスト? ふとそう思った。ボーカリストにもいろいろなタイプの人が居るが、録音が好きな人はあまり多くいない様に思う。ボーカリスト、それもジャズの場合は通常ソロパートが最も多く、つまり1回分しか歌わないわけで、1曲の録音なんて大した時間でもないのに、その間複雑な心境となるらしい(もちろん録音大好きな方もいらっしゃいます)。歌うことは好きなのに、録音されることは嫌いな人にとって、"録音されること"とは時に、"裸を観られているのと同様なこと"との思いらしい。そしてそれは特にボーカリスト、それも女性の方が顕著な気がする。
と言うことは、こんなに多くのご自身のお声を録音された明子さんは、やっぱり○○○○○?

辻本 明子

日ごろ、solo を中心に歌っている私に、chorus レコーディングのチャンスが到来しました。しかも、自分の声 only で overdubbing していくという……。
録音に入るまでは、未知数でいっぱいでしたが、怖いもの知らずの、どちらかと言えばルンルン気分。録音に入り、やればやるほど今まで歌ってきた solo vocal との違いに愕然とし、大変なことになってしまった……と首をすくめ肩を落とした日々。しかしながら、私の個性を活かして、吉村さんが一曲一曲、すばらしいアレンジをしてくださっています。根気良く長時間のレコーディングに付き合ってくださったサウンドエンジニアの三住さん、それからスタジオに何度も尋ねてきてくださったチロリン(吉村夫人)の応援がなければ、このプロジェクトは形にならなかったでしょう。
レコーディングの話が出て約2年の間に、それはもうたくさんのエピソードがあります。Vocalist として印象深い出来事をひとつお話しします。4曲目のレコーディングを始める前の2009年7月ことですが、カリフォルニアへ旅をした折、この機会にと、Vocalist としても Voice Trainer としても広く知られている、Kevyn Lettau に会いに行きました。若いときはセルジオメンデスのバックコーラスのメンバーとしても活躍した、Latin feel と高めの声に特徴のある Vocalist です。彼女 のアドバイスを受けるなか、4曲目 Stolen Moments のEマイナーは、「あなたのKeyではないわ。半音高くするべきよ」という提案があり、経験ある Vocalist の考えを尊重して、Fマイナーに変えました。そこまでは良かったのですが、高くなった半音のため、歌のニュアンスが変り、音域の限界に挑戦することになり、それからまたまた始まった過酷な日々。Chorus の半音は, 私にとって solo vocal の3度くらいの感じでした。ひとり chorus の key の設定は非常に難しいことがわかりました。Kevynも困って(責任を感じて?)、インターネットのテレビ電話を利用して、何度もフォロー&アドバイスをくれました。セクシーなウィスパーテクニックなども。
このような秘話がたくさんこめられたアルバム。作品として完成できた以上に、私にとって、Voice について、コーラスについて、そしてレコーディングについて、たくさんのことを考えさせてくれ、すばらしい経験をさせてくれました。
たくさんの方が聞いてくださることを、心から願います。